『幸せな夢』の終わり

10月20日(日)@東京スタジアム

日本 ●3-26 南アフリカ

観衆48,831

『夢』はいつか覚める。

本当にそんな感覚でした。

今大会のベストと言える布陣で挑んだジャパン。

どんな相手だろうが”勝てる!”と信じられるメンバー。

その選手たちがこの4年間で培ってきたもの全てをこの80分間で出し切りました。

それでも本気のスプリングボクスは圧倒的に強かった。

姫野選手、田村選手、そしてトンプソン選手。

ここまで身体を張ってチームを牽引し、出場した試合では試合終盤までピッチに立ち続けてきた猛者たちも、この試合では後半早々に交代。

しかし、不思議なことに彼らの表情はどこか淡々としたものに見えました。

それは決して諦めとかではなく、全てを出し切った上で”相手が上”と認めた潔さのような感じ。

その表情を見て、『夢』の終わりがいよいよ近づいてきたことを実感しました。

「出し切っても勝てない。」

外から見ている人間以上に、身体をぶつけ合っている選手たちの方が、それを強く感じたのかもしれません。

これが負けの許されない決勝トーナメントでの戦い。

これが本気の”ティア1”。

優勝を経験している国の本当の強さと怖さ、そして懐の深さを感じました。

 

ギリギリの状態の中で

この試合ジャパンはキックでアンストラクチャーを作る戦術を採用しました。

大会前までジャパンの代名詞だった戦術ですが、予選プールアイルランド戦、スコットランド戦ではそれを覆す『ポゼッションラグビー』で勝利をあげている。

その結果を鑑みると、この試合でも同じ戦術を採用するのが定石と考えていました。

それが、蓋を開けてみれば序盤からキックの連続。

ただキックを警戒している南アに対して、局面を大きく打開する有効打はなかなか出ない。

もちろん、相手の強みであるストラクチャーを回避し、フィジカルコンタクトを極力減らすという目的は理解出来ます。

ただ、大会前のテストマッチで完敗した相手に、あえて同じ戦術をぶつけてきた背景には、ポゼッションラグビーをやり切る気力と体力が残っていなかったことにあるのではないか、とも感じてしまいます。

今大会ホスト国の日本は、前回大会で苦しんだ『中3日』での試合がなく、全ての試合で十分な間隔が与えられました。

この恵まれたスケジュールにより、チームとして十分な休養と準備時間を確保出来たことで、予選プール4試合を全てベストメンバーで戦い抜くことが実現できたと言えます。

しかし、逆にそのことが、試合に出続けた主力メンバーの疲弊を増長させることにも繋がったとも言えるのではないでしょうか。

実際開幕戦となったロシア戦からこの南ア戦までのスタメンはほぼ固定。

そして31人のメンバーの内5人が、一度もベンチ入りを果たせなかったことからも、主力メンバーへの依存度と負荷がいかに大きかったかが分かります。

5週連続の真剣勝負、それも自国開催のプレッシャーの中。

やはりメンタル、フィジカル双方で、これ以上走り続ける余力は残っていなかったのかもしれません。

そのギリギリの状態の中で選択した苦肉の策が、『キッキングラグビー』と言うことであれば、戦術の議論など無意味ですね。

その中で完璧なキック処理を披露した松島選手、福岡選手、山中選手の安定感には、ただただ賞賛するばかりです。

 

しかし、少し先のことを考えると、次回のW杯において今大会と同じようなスケジュールは期待できません。

2023年フランス大会で見据えるのは、今大会を超える『ベスト4以上』。

戦い抜く試合数も必然的に多くなってきます。

この経験を永続的な強化への架け橋に出来るよう、今大会のレビューをしっかりした上で、メンタル面だけではなくフィジカル面でも、メンバー31人全員で戦い抜く体制を構築してほしいと願います。

 

最後まで示したプライド

『ベスト8敗退』という結果で、今大会のジャパンの旅路は終わりを迎えました。

しかし、これまで日本のラグビー史では、このステージに立つこそすら許されなかったのも事実。

・ワールドカップの自国開催

・アイルランド、スコットランドらティア1国の撃破

・予選プールを4戦全勝

・プール首位通過で準々決勝進出

世界中に強烈なインパクトを残したこの偉業は、決して色褪せることはありません。

私自身、試合会場、そしてテレビの前で何度も何度も歓喜と感動を味わわせてもらいました。

この経験は必ず未来への財産となります。

いや、私たちラグビーファンも共に未来へ繋げていかなければいけません。

南ア戦でのラストプレー。

ホーンが鳴った後でも攻めてきた南アのCTBルカニョ・アムへ突き刺した中村亮土選手の鋭いタックル。

そしてLOスナイマンへ浴びせた稲垣選手とヴァル選手のダブルタックル。

ラストの瞬間立て続けに生まれたそのプレーに、今大会ジャパンが示し続けたプライドが表れていました。

これが我らが代表。

誇り高きブレイブ・ブロッサムズ。

この5週間のあいだ、幸せな夢を見せ続けてくれた選手、指導陣、そしてジャパンに関わる全ての関係者の皆様へ、心からの祝福と敬意を表したいと思います。

おめでとうジャパン。

ありがとうジャパン。

そしてお疲れ様でした。

どうかゆっくり休んで、日本のため、チームのためにこれまで犠牲にしてきた家族との時間を取り戻してください。

最後に

準々決勝を勝ち抜きベスト4に残ったのは、NZイングランド南アフリカウェールズ、の4カ国。

世界へ名を轟かせる大国だらけ。

ジャパンが魅せてくれた夢は終われど、本当の意味での『世界最高峰の戦い』はここからです。

世界一が日本で決まる。

これを見逃す手はありません。

最後の最後までこの『一生に一度』を堪能しましょう。

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