2019年1月2日。
ついに歴史が動いた。
舞台は秩父宮。大学選手権準決勝。
ここまで9つの連覇を続けてきた”絶対王者”がついに”関西の雄”に屈した。
昨日は衝撃と興奮がさめやらなかったが、頭も整理できたのでここで準決勝第2試合のレビューを書いてみたい。
第55回全国大学ラグビー選手権
準決勝 試合結果
第1試合 | 明治 | ○31-27 | 早稲田 |
第2試合 | 天理 | ○29-7 | 帝京 |
第2試合 天理対帝京
ついにこの日が訪れた。
いや訪れてしまったと言った方がいいかもしれない。
絶対王者がついに陥落した。
それも完敗という内容で。
帝京の強みは強固な体幹から繰り広げられるフィジカルバトル。
序盤からボディブローのように体を当て続け、相手の気力と体力を削いでいく。
これまで挑んできたライバル校が前半は互角に戦いながら、後半に突き放される展開はこれまで何度も見てきた。
しかし、そのフィジカルバトルの部分でこの日は天理に圧倒された。
スクラムは押し続けられ、ボールを持ち込んでも強烈なタックルにはじき返される、ボールを出すために人数をかけるから攻めれば攻めるほど追い詰められていく。
まわしを掴めば敵無しだったはずの横綱が、がっぷり四つの状態でなす術なく寄り切られるような展開。
このような展開を帝京が強いられる状況が来るとは思っていなかった。
早明戦の流れで私の周りで観戦していた中立ファンの心理も時間の経過とともに変化していった。
「天理も頑張ってるけど最後は帝京が勝つよ」
「帝京はここからが帝京だから」
「何かおかしくない⁉」
「そろそろ点を取らないとヤバい」
「もう時間ないよ」
「本当に負けてしまうのでは...」
「まさかこんな日が...」
正直私も同じ気持ちだった。
圧倒的な戦力を抱え連覇を続ける帝京の敗戦をどこかで求める自分がいながら、本当にその瞬間に立ち会うと「まだいなくならないでくれ」、「こんな姿は見たくない」という気持ちになった。
やはり強い王者の姿を見せてほしい、たとえ陥落する時でも、横綱相撲をしながら最後の最後に足元をすくわれる、そんな展開を期待していた。
SO北村選手が開始早々脳震盪で欠場する不運は確かにあった。
しかしそれをカバーする術も王者は持ち併せているはずだった。
それがここまで完膚なきまでに叩きのめされるとは。
実際、今季は対抗戦でも早稲田にこそ快勝したが、慶應には迫られ、そして明治には春夏秋と3連敗を喫した。
大学選手権初戦では関東リーグ戦3位の流経大をシャットアウトしたが、昨年までとは明らかに道のりは異なっていた。
10連覇は途方もない数字だ。
選手たちは私なんかでは想像もつかない程の重圧と戦ってきたのだろう。
秋山主将、竹山副将が流す涙がそれを物語っていたように感じる。
それでも試合後、岩出監督は泣き崩れる選手に対してこう呼びかけたという。
「今までたくさんの選手を泣かせてきたんだから、今日は自分たちが思いっきり泣け!そして次笑えるようにまた頑張ろう!」
なんて言葉だろうか。
私はこの言葉を記事で目にした時、当事者ではないのになぜか涙があふれてきた。
この思慮深さ、この慈愛、そして他校に対するリスペクト。
この監督がいる限り帝京は帝京であり続けるのだろう。
たとえ連覇が9で途絶えても、きっとこの悔しさを糧にまた来年立ち上がってくる。
その勇敢な姿をまた目にしたいと心底思った。
今日王者は敗れた。
それでも帝京がやり遂げた偉業は色あせる事はない。
この偉業を超えるチームも今後現れることはそうないだろう。
どうか胸を張って卒業してほしい。
ラグビーファンの誰もがあなた達をリスペクトしているのだから。
そして、天理大学。
今年は強い!と感じてはいたが、王者相手にここまで圧巻の試合を見せるとは正直予想だにしていなかった。
帝京よりも平均体重でおよそ10㎏も軽く、両フランカー佐藤選手、岡山選手の身長は168cm。
そして何とスクラムの中心となるフッカー島根主将はフランカーからのコンバート1年目。
そんなフォワード陣が王者のスクラムを粉砕する。
強力なセカンドプッシュでほぼ全てのマイボールスクラムを押し続け、前半にはペナルティトライも奪った。
その光景は戦慄さえ覚えるほど衝撃的なものだった。
個人的な話となるが私の身長は165㎝、現役時代のポジションはフランカーだった。
将来はラグビー選手になる事を夢見て古豪の公立校でプレーしたが、高校3年間を通して大阪の私立強豪校とのサイズの違いに直面し、大学でのプレーを断念した過去がある。
その年の花園で啓光学園(現・常翔啓光学園)と大工大(現・常翔学園)というサイズとフィジカルを兼ね備えたチームが決勝を戦い、大学ラグビー界はというと”重戦車”明治の黄金時代。
ラグビーは結局サイズでやるもの、とあの当時の私はそう考えた。
もしこのようなチームが当時存在していたなら、私も大好きなラグビーを続けていたかもしれない。
センチメンタルな話ではなく、それくらい小兵ラガーマンにも勇気と希望を与えてくれるチームが今の天理大学だろう。
絶対王者を陥落させたこの偉業はきっと後世語り継がれるものとなるはず。
だからこそこのチームが頂点に立ち、伝説を完結させてほしい。
試合前には天理HO島根主将のもとに、立命館大学古川主将、京都産業大学上田主将ら共に関西リーグと大学選手権を戦った盟友から激励のメッセージが届いたという。
選手権の3回戦では前の試合で敗れていた京産大が、次戦に臨む立命館のメンバーを花道を作って送り出した一幕もあった。
まさに”チーム関西”。
関西リーグのメンバーのみならず、関西のラグビーファンも、あの平尾誠二を擁した同志社大学以来止まってしまった関西勢の戴冠を心待ちにしている。
34年ぶりの関西復権へ。
1月12日の秩父宮でも
”コウシ、シマネ、コッカ~ジ~”
天理メンバーの大合唱が、スタンドから黒衣のフィフティーンを後押ししてくれることだろう。