ラグビー大学選手権2019。
決勝の舞台は自身初めて足を踏み入れる新国立競技場。
試合前から日本代表戦並みの緊張感に包まれた宿命のライバル対決は、前半の大量リードを守り切った早稲田が11年ぶりの覇権奪回に成功。
試合内容詳細は専門メディアに任せるとして、その場に居合わせて感じたことを率直に書いていきたいと思う。
※この記事は通常の「ですます調」ではなく、「である調」で書いています。
早稲田大学
おめでとう早稲田!
この瞬間を待っていた。
新国立に響き渡る歓喜の『荒ぶる』。
優勝したときにだけ歌うことを許される伝説の”第2部歌”を聞きながら、いろいろな想いが去来した。
振り返れば早稲田最後の優勝は2008年度。
23年前の決勝で明治に敗れた時の主将である中竹竜二監督、ダイナミックなキャラクターの豊田将万主将が率い、大学選手権2連覇を達成した年。
しかし、そこから帝京大学の時代に突入すると、同時に選手権最多優勝を誇る名門は低迷。
2013年を最後に決勝の舞台から遠ざかると、2015年度には真紅の絶対王者の前に、15-92と早稲田創部史上対抗戦最多失点という屈辱的大敗も経験した。
その翌年は若きカリスマ山下大悟監督、桑野詠真主将体制下、対抗戦は2位扱いで通過するも、”完全アウェイ”の花園で同志社に不覚を取り準々決勝敗退(●31-47)。
そして2017年度は加藤広人主将体制下、選手権3回戦で東海大に18-47と完敗。
その間、帝京が連覇を”9”まで伸ばす中、なかなか上向かないチーム状況に、多くのファンの心情は期待感から失望感に変わっていったことだろう。
かくいう私自身も、敗戦に対するショック度合いが年々薄まり、諦めに似た境地に入っていた。
それが、相良南海夫監督を迎え、佐藤真吾主将で臨んだ昨季は、創部100周年のメモリアルイヤーに10年ぶりの対抗戦優勝(帝京と同率)、6年ぶりの正月越え(準決勝進出)を果たすなど躍進。
一時は失われていた期待感が徐々に高まっていく中、齋藤直人主将、岸岡智樹選手、中野将伍選手ら『黄金世代』が最終学年を迎えた今季、覇権奪還はついに現実のものとなった。
その瞬間に至るまでの感情は、言葉で上手く表現することはできない。
ただ一つ言えることは、後半20分を過ぎた辺りから私の涙腺は壊れ始め、コントロールが効かなくなっていた。
新国立に結集した多くの早稲田ファン、そしてTVの前でその瞬間を見届けた早稲田ファン。
11年分の感情の積み重ねは人それぞれだろう。
だけど共通していることは、
”強い早稲田の復活”
を心待ちにしていた想い。
・ワールドカップイヤー
・令和初
・新国立競技場初
・黄金世代最終年
・23年ぶりの早明決勝
いくつもの修飾語がつくメモリアルな年の復活劇。
こんな出来すぎたドラマはない。
この運命的な巡り合わせと、それを実現してくれた選手・スタッフへ心から祝福と感謝を伝えたいと思う。
おめでとう早稲田。
ありがとう早稲田。
悔しい思いもいっぱいしてきたけど、早稲田ファンになれて良かった。
齋藤主将へ
そして齋藤主将。
小さい身体で名門校の主将という重圧を背負い、誰よりも多く走り、誰よりも大きな声で味方にエナジーを与え続けた姿に何度も感動をもらいました。
菅平の開幕戦後、快く写真撮影に応じてくれた爽やかな笑顔。
娘の身長の高さに自然と目線を合わせてくれた細やかな気遣い。
その自然体で飾らない人柄が、多くのファンに愛され、120人を超える部員の心を一つにまとめあげたのだと思います。
「ワセダ日本一!!」
『荒ぶる』合唱後の歓喜の雄叫び。
最高の瞬間でした。
夢をありがとう。
菅平開幕戦から始まった齋藤組のビクトリーロード。
決して忘れることはありません。
次は桜のジャージを身にまとい、再び私たちに感動を届けてくれることを期待しています。
明治大学
王者はやはり王者だった
勝負に勝ち負けはつきもの。
とはいえこの試合の前半は明治に相応しいものではなかった。
ここまで年間を通して確固たるチームビルディングを遂行してきたチームにとって、あの40分間はまるで悪夢のような時間だったのではないかと察する。
スクラム、ラインアウトでうまくプレッシャーをかけられず、この試合までやられるはずのなかったところをあっさり破られ失点を積み重ねる。
前半のスコアはこの日スタンドを埋めた57,345人の観衆だけで無く、百戦錬磨のジャーナリストも予想だに出来ない展開だったと思う。
王者といえどやはり学生スポーツ。
想定外の事態を前にパニックに陥り、このまま大崩れすることも十分に考えられた。
しかし、彼らは後半全く別のチームになって帰ってきた。
とてつもない圧力と集中力。
正直言って、”恐かった”。
早稲田が圧倒した前半を終えて、
「このまま明治が終わるはずはない」
と頭では分かっていても、その鬼気迫る逆襲を目の当たりにするとやはり心は平静ではいられない。
W杯の日本対スコットランド戦がフラッシュバックするほど、全く生きた心地がしなかった。
これが王者・明治。
あの状況から短時間で立て直し、試合終了のホイッスルまで決して諦めず、最後まで戦う姿勢を示し続けた選手へ心から敬意を表したい。
そして試合後。
明治の選手達はメイン、バックスタンドだけでなくサイドスタンドにまで挨拶へ来てくれた。
その横で早稲田の歓喜の胴上げがスタートする中、込み上げる無念を押し殺し、スタンドへ丁寧に頭を下げるその姿。
勝者と敗者。
そのコントラストは残酷なもので、彼らの失意の心中を慮ると胸が締め付けられる思いだったが、それと同時に、最後まで威風堂々、王者然たる姿に明治の矜恃を感じた。
美しき敗者たれ。
言うのは簡単だが実践することは難しい。
もし早稲田が逆の立場となった時、同じ行動ができるチームであってほしい。
彼らの立派な姿を見て、そう思った。
武井主将へ
あらためて、
武井主将。
今日は敵軍の大将としての立場でしたが、連覇という重圧と戦いながらシーズンを通して最後までチームの先頭に立ち続けた姿には感銘を受けました。
優勝した昨季以上に品位に溢れ、勝利を重ねても決して奢ることなくストイックに頂点を目指す姿は、ライバル校でありながらそれを超越して尊敬に値するものでした。
そのチームと決勝の舞台を戦えたこと、そしてその現場に立ち会えたことは本当に幸せなこと。
最後結果は伴いませんでしたが、1年間取り組んできたことは決して否定されることではありません。
卒業後はさらに大きなステージでの挑戦が始まると思いますが、まずは両肩にのしかかっていた大きな荷を下ろして、ゆっくりと残りの学生生活を楽しんで下さい。
一年間本当にお疲れ様でした。
そして明治大学。
強い明治の存在そのものが早稲田ファンにとっての大きなモチベーションです。
昨年伝統校として他校に先んじて見事復活を果たし、今年早稲田がそこに追いつくことが出来ました。
このライバル関係は永遠のもの。
箸本選手、山沢選手、森選手ら”黄金世代”が最高学年となる来季も間違いなく強い。
また強いメイジとこの舞台で戦えることを今から楽しみにしたいと思います。
王者としての重圧とも戦い続けた1年間。
本当にお疲れ様でした。