2019年度の大学ラグビー。
開幕を控えた各校の展望と予想布陣を見ていくシリーズも4回目。
第4弾は今年創部120周年を迎える日本ラグビーのルーツ校慶應義塾大学です。
元日本代表のエース栗原徹氏を新ヘッドコーチに迎え、100周年時(1999年度)以来の頂点を目指す”黒黄軍団”。
注目の2019年シーズンとなります。
慶應義塾大学 対抗戦スケジュール
ではまず初めに今季の対抗戦のスケジュールを見ていきましょう。
9月1日 | 慶應 | - | 青山学院 | 菅平 |
9月8日 | 慶應 | - | 筑波 | たつのこ |
9月14日 | 慶應 | - | 成蹊 | 秋葉台 |
11月4日 | 慶應 | - | 日本体育 | 上柚木 |
11月10日 | 慶應 | - | 明治 | 秩父宮 |
11月23日 | 慶應 | - | 早稲田 | 秩父宮 |
11月30日 | 慶應 | - | 帝京 | 秩父宮 |
例年、慶應は最終節の相手が青山学院とほぼ固定されていました。
大学選手権を前に格下と言える青学と対戦できることは、帝京、明治、早稲田との対戦で露呈した課題を洗い出すことができ、またそれを実戦で試す猶予が与えられる事を意味します。
それは、精神面でも戦術面でも仕切り直しの期間として考える事が出来ました。(青学ファンの方には申し訳ありませんが...)
しかし今年は、日本開催のRWC2019を考慮した変則スケジュールのため最終節の相手が帝京に。
終盤に強豪校との対戦が集中するため、9月~10月はじっくりチーム力を醸成させる時間に充てる事ができますが、明治、早稲田、帝京と続くラスト3試合で夏合宿の天理戦のように大崩れするような事があれば、選手権に臨む際のメンタリティにも影響を及ぼすリスクも孕んでいます。
”選手権までの限られた期間内でのリカバリー”
これが例年とは異なる調整面でのポイントとなりそうです。
ここまでの戦いぶり
それでは次に春夏シーズンの戦いぶりを振り返ります。
5/12 | 春季大会 | 慶應 | ●12-38 | 流通経済 |
5/19 | 春季大会 | 慶應 | ●20-42 | 帝京 |
5/26 | 春季大会 | 慶應 | ●12-36 | 早稲田 |
6/9 | 春季大会 | 慶應 | ○43-12 | 大東文化 |
6/16 | 春季大会 | 慶應 | ●17-29 | 東海 |
7/4 | 招待試合 | 慶應 | ●14-27 | 明治 |
8/9 | 練習試合 | 慶應 | ●12-19 | 立命館 |
8/18 | 練習試合 | 慶應 | ●12-52 | 天理 |
8/21 | 練習試合 | 慶應 | ○49-17 | 明治 |
慶應は今年、SO古田京選手(前主将)、LO辻雄康選手(前副将・サントリー)、No.8山中侃選手、FB丹治辰碩選手(パナソニック)らに代表される、慶應高”黄金世代(※)”がこぞって卒業。
※2014年度全国大会神奈川県予選決勝で前年度全国準優勝校の桐蔭学園を破って花園出場を決めた世代。
下級生時からチームを支えてきたスターが去り再出発を余儀なくされた慶應は、春季大会でも大いに苦しみました。
栗原主将が戦列復帰した第4節大東大戦ではチームが上手く噛み合い快勝を収めるも、明治との招待試合を含め残り5試合は全敗。
さらに夏合宿では、昨季大学選手権3回戦で快勝した関西2位の立命館に雪辱を許し、関西王者の天理には52失点の大敗。
特に天理戦では、川合秀和副将(4年・国学院久我山)を始めほぼフルメンバーのフォワードで臨みながら、スクラムではコラプシングのペナルティを連発し崩壊。
ディフェンスでも天理の誇る強力な外国人留学生にいいように走られ、次々とトライを許す淡白さを露呈。
正直、シーズン前に”慶應危うし”を感じざるをえませんでした。
しかし、その3日後に行われた昨季大学王者の明治戦では、スクラムを優位に組んだのは紫紺ではなく、黒黄ジャージ側。
天理戦とほぼ同じメンバーで臨みながら、大学随一のスクラムを誇る明治を押し込み、崩壊したはずのディフェンスでは、出足の鋭いタックルで才能集団が織りなすオフェンスを寸断。
これだからラグビーは分かりません。。
しかし慶應にしてみれば、昨年そして一昨年も対抗戦では明治を破っており(2017年○28-26 / 2018年○28-24)、近年明治をお得意さんとしているのは事実。
この結果だけで慶應復活を語るのは時期尚早です。
やはり慶應が苦手とするのは帝京、天理、東海など強力な外国人留学生を擁するチームとの戦い。
それらのチームが相手でも勝ち切れるチームにならなければ、20年ぶりの覇権奪回も見えてきません。
栗原新ヘッドコーチが目指すのは、
”相手によって戦い方を変えるオプションを持ち、年間を通して成長し続けられるチーム”
これまで”戦術への実直さ”を常としてきた慶應に、”自主性”という新しい風を吹き込む新ヘッドコーチ。
日本代表として世界を知るその手腕にも注目しましょう。
慶應義塾大学 対抗戦予想布陣
それでは最後に、ここまでの戦いぶり、出場メンバーを参考に、私が勝手に考える予想布陣を見ていきたいと思います。
※あくまで私の独断です。
1 PR | 2 HO | 3 PR |
4 LO | 5 LO |
|
6 FL | 8 No.8 | 7 FL |
9 SH | ||
12 CTB | 10 SO | 13 CTB |
11 WTB | 15 FB | 14 WTB |
フォワード
まず今季フォワードリーダーを務めるHO安田選手(4年・慶應義塾)は当確。
下級生時代から試合出場経験はあるものの、昨季はケガに泣き、悔しいシーズンを過ごしました。
しかし、最終学年を迎えた今季はこれまで順調に試合出場を重ね元気な姿を披露。
慶應高時代に主将を務めたキャプテンシーとスクラムワークは、新生慶應フォワードになくてはならない武器。
ケガなくシーズンを戦い抜いてほしいですね。
そしてプロップ陣は昨年U20日本代表にも選出され、昨季から主力として活躍する大山選手(3年・慶應義塾)と、今季フッカーからプロップへコンバートした原田選手(2年・桐蔭学園)を選びます。
二人とも春季大会の中盤以降は試合出場がありませんでしたが、夏合宿でようやく復帰。
最終戦で明治スクラムを押し込んだことで大きな自信を得て、対抗戦へ臨んでくれるはずです。
そしてロックは、大山選手と共にU20日本代表として世界を経験し、今年の関東大学オールスター戦にも選出された相部選手(3年・慶應義塾)が中核。
卒業した辻選手のようなプレーの派手さはないものの、身体を張ったディフェンスは魅力。
長身選手の少ない慶應にあっては、ラインアウトの中心としても今やなくてはならない存在です。
そして、相棒には昨年度花園準優勝校桐蔭学園の主力にして高校日本代表ウェールズ遠征でも主力として活躍したスーパールーキー今野勇久選手(1年・桐蔭学園)を選びました。
本来フランカーの選手ですが、栗原HCにリーダーシップとゲーム理解力を買われるルーキーは、将来の”リーダー候補”としても信頼厚き選手。
初めての挑戦となる対抗戦で是非存在感を発揮してほしいですね。
そしてバックロー。
ここは天理の岡山主将と並び評される”小兵フランカーの星”川合副将(4年・国学院久我山)。
この選手はまず欠かすことができません。
さらに、スター級が抜けた今季の慶應の中で、
”飛び抜けた存在”
として唯一上級生からも一目を置かれる山本凱選手(2年・慶應義塾)。
177㎝/92kgとNo.8としては決して大柄ではありませんが、低い姿勢で相手をなぎ倒していくこの選手のボールキャリーは是非注目して下さい。
そして春から選手の入替が激しかった7番フランカーは、慶應高時代にセンターとして高校日本代表候補に選出された経験のある大谷陸選手(3年・慶應義塾)が存在感を発揮。
2017年の新入生紹介の記事に私の個人的な注目選手として挙げていた大谷選手。
ようやく対抗戦でその雄姿を見る事が出来そうです。
他にも大谷選手と同期にして2016年度の慶應高で主将を務めたFL北村裕輝選手(3年)、慶應NY出身と異色の経歴を持つ良知兼佑選手(4年)、そしてセンターからのコンバート組濱野剛己選手(3年・桐蔭学園)らも控えており、バックローはシーズン中も激しいポジション争いが繰り広げられることになりそうです。
昨季の主力が抜けたとはいえ、個々には注目選手が揃う今季の慶應フォワード陣。
他校と比べてサイズでは見劣りしますが、それを努力と発想で払拭するのが慶應の伝統。
対抗戦を通じてどのようなフォワードに仕上げてくるのか。
注目しましょう。
バックス
フォワードと比較するとある程度メンバーが固定されつつあるバックス陣。
センター栗原主将(4年・桐蔭学園)は技巧派の揃う慶應バックスにあって、フィジカルでガチンコ勝負ができる唯一無二の存在。
ケガから復帰し、夏合宿でも元気なプレーを見せてくれているのは頼もしい限りです。
さらに、昨季から主力を務めるCTB三木選手(3年・京都成章)は、今季3年生ながらバックスリーダーへ就任。
京都成章で主将を務めたキャプテンシーで栗原主将と共にバックス陣の牽引役を担います。
そして昨季ウィング、フルバックとしてチームを支えた高木一成選手(3年)と宮本恭右選手(4年)の慶應コンビが、今季は両翼のポジションを任せられそうです。
最後尾を任されるフルバックには今季頭角を現した小谷田尚紀選手(3年・慶應志木)を選出。
まだじっくりとプレーを見たことがないので、見るのが楽しみなプレーヤーの一人です。
そして最も選ぶのが難しいのはハーフバック(HB)団ですね。
スクラムハーフは、明大・武井日向主将の盟友上村選手(4年・国学院栃木)を選出。
バックスリーダーも務める若林選手(3年・慶應義塾)が有力候補でしたが、夏合宿3試合(立命館、天理、明治戦)でスタメンの座を射止めたのは上村選手。(若林選手は負傷でもあったんでしょうか。)
明治戦でチーム全体を上手くコントロールしたパスワークは、チームの信頼を得るには十分の出来だったのではないでしょうか。
対抗戦デビューが楽しみです。
そしてラストを飾るのはスタンドオフ。
昨年まで3年間古田京前主将が君臨した司令塔のポジションには、黄金ルーキーの中楠一期選手(1年・国学院久我山)に委ねることにしましょう。
昨冬、全国大会東京都予選で早稲田実に敗れ(●19-43)、花園出場はなりませんでしたが、その実力を高く評価され高校日本代表へ選出。
花園不出場校からのスタンドオフの選出は異例の事。
もう一人が花園優勝校大阪桐蔭のSO高本幹也選手(帝京大)だったことからも、その能力の高さは折り紙付きです。
空いているスペースを瞬時に見抜く視野、狭いスペースへパスを通すスキル、そして落ち着いたゲームコントロールは、とても1年生のものとは思えません。
そのクレバーなイメージは早稲田のSO岸岡選手(4年)と重なるほど。
今”ノーサイド・ゲーム”で話題の廣瀬俊朗選手、そしてあの古田京選手ですら成し得なかった1年生正スタンドオフが誕生することになれば、向こう4年間”黒黄の10番”は安泰です。
いずれにしても、早慶戦、慶明戦などの大舞台でその雄姿を見てみたい!と思わせる選手であることは間違いありません。
メンバーも入れ替わり、体制も維新。
チームの再構築が求められる今年の慶應。
今季のスローガン”UNITY(結束)”の名のもとに、対抗戦ではまた昨季のような魅力あふれるチームを作り上げてきてほしいと思います。
明治が復活した今、対抗戦は慶應、早稲田が強くないと盛り上がりません。
120周年のメモリアルイヤーを戦う慶應に注目しましょう!