リーグ戦も第5節に入り、いよいよ終盤戦に突入する大学ラグビー。

関東対抗戦ではここから帝京、早稲田、明治、慶應の昨季上位陣による直接対決がスタートします。

大学ラグビー屈指のレベルを誇る『対抗戦Aグループ』を制するのはどこのチームか!?

そして4つの大学選手権出場枠を手にするのはどこのチームか!?

ここでは、対抗戦の全試合結果をお伝えすると共に、第5節以降の注目試合のレビューをしながら優勝争いを追っていきたいと思います。

関東対抗戦A 日程&試合結果

日程 対戦会場
8/31早大○68-10日体大菅平
明大○59-33筑波菅平
9/1慶大○35-3青学大菅平
成蹊7-78○帝京菅平
9/8筑波○17-14慶大たつのこ
帝京○59-30日体大帝京大G
成蹊5-139○明大明治大G
青学大0-92○早大早大G
9/14青学大7-80○帝京大和スポ
成蹊0-101○慶大秋葉台
9/15明大○103-0日体大足利陸上
筑波8-52○早大ケーズデ
11/4早大○120-0成蹊駒沢
青学大12-63○明大上柚木
帝京○24-22筑波駒沢
慶大27-30○日体大上柚木
11/10慶大3-40○明大秩父宮
日体大○37-18青学大熊谷
早大○34-32帝京秩父宮
筑波○87-19成蹊熊谷
11/23早大○17-10慶大秩父宮
11/24成蹊17-21○青学大前橋敷島
明大○40-17帝京秩父宮
日体大23-46○筑波前橋敷島
11/30帝京24-29○慶大秩父宮
日体大○87-12成蹊江戸川
筑波○59-21青学大江戸川
12/1明大○36-7早大秩父宮

注目試合レビュー

第5節(11/10)

明治 ○40-3● 慶應義塾

快晴の秩父宮。

1万7千人の大観衆が見守る中行われた伝統の慶明戦は、明治が慶應をノートライに封じる圧巻の試合運びで見事勝利。

過去2年間の対抗戦での敗戦(2017年度:●26-28 / 2018年度:●24-28)、そして今年の夏合宿での大敗(●19-47)と、慶應が相手になると何故か勢いを失ってきた明治がついに覚醒しました。

密集サイドという慶應の強みへ真っ向勝負を挑むのでは無く、上手くバックスへボールを散らし、的を絞らせないゲームメイク。

LO片倉選手(3年・明大中野)を中心に制圧したラインアウト。

SO山沢選手(3年・深谷)、FB雲山選手(2年・報徳学園)のロングキックも効果的。

慌てる場面もなく常に冷静な試合運び。

春夏シーズンから試合によってムラが散見された明治でしたが、すつかり大人のチームに仕上がってきましたね。

負傷離脱していた山村知也副将(4年・報徳学園)、児玉樹選手(2年・秋田工)もメンバーへ復帰し、シーズン終盤へ向けいよいよ臨戦態勢に入ってきたといったところでしょうか。

次節は帝京大戦。

昨年は春夏秋と3連勝を飾りましたが、甘い相手ではありません。

この勢いのまま帝京も飲み込んでしまうのか、早稲田に敗れ後がなくなった帝京の逆襲に遭うのか。

注目の『新旧王者対決』

楽しみにしたいと思います。

 

一方の慶應は、留学生の入部で後半戦の戦いが注目されましたが、日体大戦に続きこれで2連敗。

夏合宿以降CTB栗原由太主将(4年・桐蔭学園)の相棒として出場してきたイサコ・エノサ選手に代え、昨年までレギュラーを務めてきた三木亮弥選手(3年・京都成章)を戻すなど、テコ入れを図ってこの一戦に臨みましたが、なかなかチーム状態は上向きになりません。

LOで先発したアイザイア・マプスア選手も殆ど見せ場無く終わり、ルーキーながら司令塔を任されるSO中楠一期選手も周りとの連携がどこかちぐはぐで、チームとしてどう戦うかが明確になっていない印象を受けます。

伝統のディフェンスでも苦戦が続く今の状態だと、大学選手権の出場枠確保は現実的に非常に厳しい状況です。

残る試合は早稲田と帝京。

今年創部120周年を迎える慶應が、このまま崩れていいわけがありません。

黒黄軍団のここからの奮起に期待しています。

 

早稲田 ○34-32● 帝京

早稲田が覇権から遠ざかること10年。

この期間は帝京に負け続けた歴史でもありました。

2010年の有田組が対抗戦で勝利(○33-14)して以降、ライバル明治、慶應には勝てても帝京には一度も勝てない時代が続き、2015年には”15-92”と早稲田にとって対抗戦史上最多失点、最多得点差の屈辱も経験。

『勝てない早稲田』『墜ちた名門』

そう揶揄された翌年の2016年、SH齋藤直人主将(4年・桐蔭学園)、SO岸岡智樹選手(4年・東海大仰星)ら”黄金世代”と呼ばれる現4年生は入部してきました。

以降も毎年チャレンジしては跳ね返され続けた時代を経て、彼らが最終学年となった今年、

ついにその壁を打ち破りました。

早稲田ファンの皆さん、まずはこの勝利の余韻に浸りましょう。

 

、、、本当に長い道のりでした。

これで対抗戦では対帝京戦9年ぶりの勝利。

今年は夏合宿(○31-21)に続いての連勝です。

これでようやく苦手意識を克服し、長らく苦しめられたきた”紅い壁の呪縛”から解き放たれたと言えるでしょう。

覇権奪回を射程圏内に捉える今季の早稲田にとって、最大のターニングポイントと考えられたこの試合をものにした意味は非常に大きい。

残すは早慶戦、早明戦。

今年のチーム力からすれば、1994年度以来(?)となる”早明全勝決戦”も見えてきました。

チケットは既に完売。

12月1日秩父宮はすごいことになりそうですね。(私はチケットが入手できていませんが...)

 

ただ、日本一に向けてというところでは、『選手層の薄さ』という課題はまだ依然として残っています。

今季のスタメンを見ると、確かに明治、帝京に引けを取らない豪華メンバーが名を連ねています。

しかし実際、この試合では帝京が前後半併せて6人を入れ替えたのに対して、早稲田の選手交代はWTB安部選手(3年・国学院久我山)に代わって入った梅津友喜選手(4年・黒沢尻北)ただ一人。

スタメンで出た14人が試合終了まで高い強度でプレーし続け、最終的に逆転勝利を呼び込んだことは賞賛に値しますが、逆に言えばこの緊迫した試合展開の中で、自信を持って送り出せるベンチメンバーがいなかったということ。

CTB中野将伍選手(4年・東筑)、WTB桑山淳生選手(4年・鹿児島実)、LO下川甲嗣選手(3年・修猷館)ら主力数人が離脱しているのも事実ですが、この先のトーナメントを見据えると、同じメンバーで最後まで戦い抜くことは容易なことではありません。

『ベンチ含めた23人全員が戦える状態にあること』

前節筑波戦では本郷泰司主将を試合終了間際まで温存し、この試合では留学生2人をベンチにおいた帝京、そしてリザーブにも主力級のメンバーが揃う明治との差はやはりその部分です。

黄金世代が抜ける来季以降を見据える意味でも、主力以外のメンバーに緊迫した試合を経験させることは選手層の底上げに必要不可欠です。

残る2試合では負傷交代だけでなく、戦略的に選手を入れ替える”積極采配”を首脳陣には期待したいと思います。

第6節(11/23・24)

早稲田 ○17-10● 慶應義塾

 これまでの観戦では記憶にない土砂降りの早慶戦。

LO下川甲嗣選手(3年・修猷館)WTB桑山淳生選手(4年・鹿児島実)が復帰し、ファンにとっては堪らないメンバーが顔を揃えた早稲田に対し、慶應は留学生を2人揃えたものの、明治戦で精彩を欠いた栗原主将(4年・桐蔭学園)をベンチに置く布陣。

『早稲田20点差以上での勝利』

これが個人的な予想でしたが、やはり“手負いの虎”はそう甘くありませんでしたね。

この試合に負ければ4位以内の可能性がなくなる慶應の『魂のタックル』は本当に見事でした。

ただ、今季の課題である得点力という部分では、やはり最後までトライを取り切る形を見いだすことが出来なかった印象です。

後半終盤に28フェイズを重ねながら無得点に終わった慶應と、最後まで凌ぎきった早稲田

このシーンが今の両校の現在地を表していると言えるのではないでしょうか。

 豪華なバックス陣を擁し攻撃力に焦点が当たる早稲田ですが、今季フォーカスしているのはディフェンス。

帝京戦では簡単に取られる大味なシーンが目立っただけに、この早慶戦という大一番でチームディフェンスが機能したことは明治戦、そして大学選手権に向けて大きな自信となりそうです。

 ただ、慶應のラストチャンスに繋がってしまったSO岸岡智樹選手(4年・東海大仰星)のドロップゴールの失敗には肝を冷やしました。

あのプレーの後、齋藤直人主将(4年・桐蔭学園)がレフェリーにラインアウトモール時のアドバンテージの有無を確認していたように、確かに誤解を招くようなジェスチャーがあったことは事実です。

しかし、やはり試合を左右する場面での“セルフジャッジ“は絶対に禁物です。

今季は早稲田対帝京、筑波対慶應、東海対流経大、そして関西でも同志社対近大、同志社対関学大など、ロスタイムに勝敗が決する試合が多く見られます。

ここからのトーナメントでは『試合の終わらせ方』,『ラスト10分のマネージメント』が非常に重要。

この部分を疎かにすれば、10年ぶりの覇権奪還は夢物語になります。

齋藤主将、岸岡選手のHB団は間違いなく近年最強のコンビ。

この二人を中心とした今年のチームでの頂点をファンは心待ちにしています。

最後の最後に不用意なプレーで泣く姿は絶対に見たくありません。

 いよいよ次戦は早明戦。

早明全勝対決は1994年以来25年ぶり。

ワールドカップイヤーに実現した夢の全勝対決。

水をあけられていた早稲田の強化が、明治にようやく追いつきました。

勝敗はもちろん重要ですが、最後まで出し尽くす姿を是非見せてほしいと思います。

  

一方の慶應

「久々に慶應らしい試合だった!」

「雨の中、ここに来て良かった!」

試合後、周りに座っていたファンの方々も語っていたように、慶應にとっては今季ベストゲームと言える内容でした。

試合を通して『魂のタックル』を突き刺し続けた姿には心揺さぶられましたが、やはり今季の課題である得点力の差が、7点差を最後まで縮めることが出来なかった要因でしょう。

後半途中から出場して試合の流れを大きく引き寄せた栗原由太主将(4年・桐蔭学園)でしたが、最後はその主将のノックオンでノーサイドを迎えたのもとても皮肉な結果でした。

これで慶應の大学選手権連続出場は21年でストップ。

昨季22年ぶりに日本一となった明治と対照的な結果となりました。

120周年のシーズンで過渡期に立たされた『ラグビールーツ校』。

来季の再建に向け、最終節の帝京戦では黒黄軍団の“プライド”を見せてほしいと思います。

 

明治 ○40-17● 帝京

注目の『新旧王者対決』は“現”王者・明治に軍配。

スクラム、ラインアウト、ブレイクダウン、キック合戦、展開力。

どれをとっても明治の準備と気迫が上回った印象です。

特に明治のフォワード陣がいい表情をしていました。

「俺たちはもう帝京には負けない。」

帝京が勝ち続けた時代が長かっただけに、「あの時代には戻らない」という気迫が表われているように感じました。

 

そして、の試合で特に目を引いたのは明治ロックの片倉康瑛選手(3年・明大中野)

昨季終盤から頭角を現し、ラインアウトの中心として22年ぶりの日本一に貢献した選手ですが、この試合でもその存在感は際立っていました。

この試合帝京のラインアウト獲得率は50(10分の5)

帝京のスローイングがこの190cmの壁に跳ね返されシーン、それを嫌がって後ろに逸れていくシーンを何度も目にしました。

試合を通じて帝京がマイボールを継続できなかったのは、スクラムもそうですがこのラインアウトでの誤算が一番大きかったと感じます。

味方にいてこれだけ頼もしい選手はそういませんね。

 

そして武井日向主将(4年・国学院栃木)

素晴らしい選手であることに疑いの余地はありませんが、この試合を見て改めて世代を代表する選手であることを実感しました。

表情から溢れる自信、タックル・ボールキャリー・スクラムなどプレーと背中で引っ張れるキャプテンシー。

この選手がいる限り、明治は驕りとは無縁なところにいる気がします。

この主将にしてこのチーム。

本当にいい選手です。

 

さぁ次戦はいよいよ早明戦。

この隙の無い王者に対して気力充実の早稲田がどう立ち向かうのか!

楽しみは尽きません。

  

一方の帝京

帝京が対抗戦でここまで圧倒される試合を見るのは一体いつ以来なのでしょうか。

次々とインゴールを割られる”真紅のジャージ”の後ろ姿を目の当たりにし、時代の変化を改めて感じました。

 

タックルミス”19

ラインアウト獲得率”50%”。

これらはいずれも致命的な数字。

そしてそれに加え、密集内でのペナルティの多さは、ディフェンス面で高い規律を誇った黄金時代からは考えられないことです。

ここが安定しないとやはり勝てるチームになるのは難しい。

残念ながらまだ浮上のきっかけは見えてきていません。

 

しかし、リーグ後半戦からセンターのレギュラーに定着した新井翼選手(4年・流経大柏)の台頭など、ポジティブな面もあります。

身体の強さと柔らかさを兼ね備えた帝京らしいセンター。

この試合でも随所に、強力なタックル、素早いリロード、キック精度の高さなど光るプレーを披露しました。

本郷主将をフランカーで使うという発想は、この選手の存在あってのものでしょう。

 

さらにこの試合で再三ビッグゲインを見せるなど躍動したFB奥村翔選手(3年・伏見工)

攻撃面だけでなく、後半10分に右タッチライン際を疾走した明治WTB山﨑選手を一発で仕留めたタックルには、帝京の矜恃を感じました。

あそこで走り切られていたら、この試合はもっと早くに決まっていたはず。

やはりいい選手は多く存在します。

 

次戦の相手は、早慶戦に敗れ選手権出場の希望を絶たれた慶應義塾

帝京・本郷泰司主将と慶應・栗原由太主将。

共にセンターとして低学年時代から輝きを放ちながら、今季は主将として、そしてプレーヤーとしても苦しいシーズンを送ってきている両選手。

リーグ最終戦で上回るのはどちらの意地か!?

二人のプレーとその表情にも注目したいと思います。

 

最終節(11/30・12/1)

明治 ○36-7● 早稲田

明治にとっては快心の勝利。

明治の関係者、ファンの方々へまずはおめでとうと言いたいと思います。

内容については細かく触れませんが、ラインアウト、スクラム、ブレイクダウン、全てのフィジカルバトルの部分で早稲田を上回った印象です。

『重戦車』という一言が現代の明治に相応しいとは思いませんが、この試合に関して言えば往年の輝きを取戻した『重戦車フォワード』が早稲田を圧倒したと言えるでしょう。

この試合でも、

自身も2トライと身体を張ってチームを鼓舞し続けたHO武井日向主将(4年・国学院栃木)、

もはや誰も止められない域に達しつつあるLO箸本龍雅選手(3年・東福岡)、

ラインアウトの『番人』として君臨したLO片倉康瑛選手(3年・明大中野)、

そして今やスタンドオフとしても大学界随一の輝きを見せるSO山沢京平選手(3年・深谷)ら、今季の中核を担うプレーヤーが躍動。

さらにスクラム、そしてチームディフェンスも盤石。

正直この試合は勝てる気がしませんでした。

試合終了間際に、卓越した個人技でダメ押しトライを奪ったWTB山村知也副将(4年・報徳学園)ら、選手権に向けて役者も揃い、個々の表情も自信に満ちあふれ油断など皆無。

リーグ7試合を通じての平均得点69、平均失点11は、いずれも対抗戦トップの成績。

いよいよ攻守共に全く隙のないチームになってきましたね。

今の明治を止められるチームは現れるのか。

『ストップ・ザ・メイジ』

今年の大学選手権の焦点はその一点に集約されそうです。

 

そして早稲田

決定機でのラインアウトスティール、相手を勢いづけてしまったスクラムの劣勢など敗戦の要因は色々ありますが、見ていて一番感じたのは”ディフェンスの脆さ”です。

ここまでリーグ最少失点(60失点)を誇り、今季の早稲田に安定感をもたらせていたチームディフェンスがこの日は機能しませんでした。

ブレイクダウンはしつこさがなく淡泊、一人一人のタックルにも低さと強度がなく、明治の縦突進にことごとくゲインラインを割られるシーンが目立ちました。

特に“タックル“は早稲田が絶対に受けてはいけない部分。

ここで対抗できなければ今の明治に勝つことはやはり難しくなります。

これは『主力不在』などと言われる要因とは関係なく、メンタル的な要素。

選手権に向けてまずは今季の原点となる”ディフェンス”をもう一度見つめ直してほしいと思います。

 

これで早稲田は”対抗戦2位”という結果に終わったため、大学選手権は天理、帝京、日大、京産大と、強力フォワードを擁するチームが顔を揃える厳しい山にプロット。

ここを勝ち抜かなければ明治へのリベンジの機会は与えられません。

2008年以来11年ぶりの『荒ぶる』奪還へ。

フォワードの奮起が必要不可欠です。

 

慶應義塾 ○29-24● 帝京

慶應が9年ぶりの帝京撃破。

“手負いの虎“がリーグ最終戦で意地を見せつけました。

 この試合で誰より輝いたのはFL川合秀和副将(4年・国学院久我山)

栗原主将がベンチスタートとなる中、タックル、ボールキャリーなど最前線で最後まで身体を張り続けた姿には胸が熱くなりました。

試合終了後の栗原主将との涙の抱擁。

そしてMan of the Matchに選ばれた試合後のコメント。

「選手権は逃したが最後に全員で慶應の意地を見せることができた。来年も慶應ラグビーは続いていく。」

黒黄軍団』は終わらない。

そんな想いにさせてくれる試合でした。

また来年素晴らしいチームを作り上げて戻ってきてほしいと思います。

最終順位表(12月1日時点)

順位チーム勝数負数得点失点点差
優勝明 大7048077403
2早 大6139096294
3帝京大43314169145
3筑波大4327221260
5日体大34217333-116
5慶 大3421913188
7青学大1682383-301
8成蹊大0760633-573
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